2008.05.28 Wed
第三章 秋・色づき
vol.15
聡美があんなこと聞くから別れて一人歩きながら、蓋をしていた香莉のことを思い出してしまっていた。
…結局香莉と付き合ったのは半年くらいだった。彼女は高校卒業後、福祉の専門学校にいった。彼女らしい選択だと思った。でも暇な大学生の俺とは違い専門学校は、実習やレポートなど日々忙しく、連絡をとる余裕がなくなり、彼女は申し訳ないと言って結局、大学一年の夏を迎える前に別れることになった。俺はまだ全然彼女が好きだったし、彼女が専門学校を卒業して余裕ができたらまたつきあえばいいぐらいに思っていた。けれどそれから二度目の秋を迎える頃には、風の噂で香莉ができちゃった結婚をしたと聞き、俺は香莉の記憶を封印することにした。
時の流れは人の辛い記憶を和らげ、楽しかった思い出だけを鮮やかに浮かび上がらせる。俺はまだ、彼女のことを過去にできないでいた。
「田崎、そいや今彼女とかいんの?」
翌日、学食で榊と昼飯を食っていると榊がラーメンを啜りながらふいに聞いてきた。なんだってこんなに同じようなことを聞かれるんだろう。
「今はいないよ。てかお前もだろ?まあとりあえずガンダム以外の趣味見つけた方がいんじゃね?」
俺は会話を終わらせる為に榊の弱点をわざとついた。
「うるせー。お前に言われたくないわ。あでも最近ガンダム以外にはまってるもんあるよ?」
「え?何?」
「今更エヴァ。こないだ深夜番組見てたらなんか特集やっててさ、今最初から全部借りて見てるとこ」
榊が目を輝かせていった。
「それガンダムとあんま変わらないから」
思惑通り話はそれた。今はもう香莉のことはあまり考えたくなかった。
vol.15
聡美があんなこと聞くから別れて一人歩きながら、蓋をしていた香莉のことを思い出してしまっていた。
…結局香莉と付き合ったのは半年くらいだった。彼女は高校卒業後、福祉の専門学校にいった。彼女らしい選択だと思った。でも暇な大学生の俺とは違い専門学校は、実習やレポートなど日々忙しく、連絡をとる余裕がなくなり、彼女は申し訳ないと言って結局、大学一年の夏を迎える前に別れることになった。俺はまだ全然彼女が好きだったし、彼女が専門学校を卒業して余裕ができたらまたつきあえばいいぐらいに思っていた。けれどそれから二度目の秋を迎える頃には、風の噂で香莉ができちゃった結婚をしたと聞き、俺は香莉の記憶を封印することにした。
時の流れは人の辛い記憶を和らげ、楽しかった思い出だけを鮮やかに浮かび上がらせる。俺はまだ、彼女のことを過去にできないでいた。
「田崎、そいや今彼女とかいんの?」
翌日、学食で榊と昼飯を食っていると榊がラーメンを啜りながらふいに聞いてきた。なんだってこんなに同じようなことを聞かれるんだろう。
「今はいないよ。てかお前もだろ?まあとりあえずガンダム以外の趣味見つけた方がいんじゃね?」
俺は会話を終わらせる為に榊の弱点をわざとついた。
「うるせー。お前に言われたくないわ。あでも最近ガンダム以外にはまってるもんあるよ?」
「え?何?」
「今更エヴァ。こないだ深夜番組見てたらなんか特集やっててさ、今最初から全部借りて見てるとこ」
榊が目を輝かせていった。
「それガンダムとあんま変わらないから」
思惑通り話はそれた。今はもう香莉のことはあまり考えたくなかった。
2008.05.27 Tue
第三章 秋・色づき
vol.14
昔からよくクラスの女子に告られてきた。別に自慢したいわけじゃなくて、一体俺の何を見て好きだとかつきあいたいだとか言ってるのか、正直よくわからなくて…大学入ってからもよく女には困らないだろみたいなこと言われてきたけど、実際彼女と呼べるのはたった一人だけで…。
「田崎、おまえもったいないよ。とりあえずつきあっとけばいいじゃん」
中学、高校で女子からの呼び出しを受けては断って帰ってくるたびに友達から恨めしそうな顔で言われた。
「でも俺にその気がないのに悪いじゃん」
たいていそんな言葉を返して、周りの冷やかしを受け流してきた。
そんな俺がたった一人、自分から告って付き合ったのは高三のときに同じクラスだった吉本香莉だけ。彼女はいつも同じバスに乗ってた。たいてい本を読んでいて、少し俯き加減の彼女の横顔を俺は毎日、見ていた。
彼女を意識したきっかけは三年の始業式の朝。その日は雨でバスの中は湿気で蒸していた。彼女は途中で乗ってきた女の人に当たり前のように席を譲った。お年寄りに譲るならわかるけど…そう思ったらなんだか気になって、じっと見てしまった。席を譲られた女性は、二つ先のバス停で降りていった。その人が俺の横を通りすぎていく時、鞄に何かピンクのバッジみたいのがついているのが見えた。その時はわからなかったけど、後日、テレビの番組でそれがお腹のまだ目立たない妊婦がつけるキーホルダーみたいなもので、彼女がそれに気付いて席を譲ったのだとわかるとその周りへのさりげない配慮に、一気に彼女に興味を持った。
クラス替えがあり新しい教室に入ると彼女がいた。俺は心の中で小躍りしていた。それでも、ちゃんと話し掛けれたのは席替えをして隣の席になった六月、更衣の時期を過ぎて夏服になってからだった。
vol.14
昔からよくクラスの女子に告られてきた。別に自慢したいわけじゃなくて、一体俺の何を見て好きだとかつきあいたいだとか言ってるのか、正直よくわからなくて…大学入ってからもよく女には困らないだろみたいなこと言われてきたけど、実際彼女と呼べるのはたった一人だけで…。
「田崎、おまえもったいないよ。とりあえずつきあっとけばいいじゃん」
中学、高校で女子からの呼び出しを受けては断って帰ってくるたびに友達から恨めしそうな顔で言われた。
「でも俺にその気がないのに悪いじゃん」
たいていそんな言葉を返して、周りの冷やかしを受け流してきた。
そんな俺がたった一人、自分から告って付き合ったのは高三のときに同じクラスだった吉本香莉だけ。彼女はいつも同じバスに乗ってた。たいてい本を読んでいて、少し俯き加減の彼女の横顔を俺は毎日、見ていた。
彼女を意識したきっかけは三年の始業式の朝。その日は雨でバスの中は湿気で蒸していた。彼女は途中で乗ってきた女の人に当たり前のように席を譲った。お年寄りに譲るならわかるけど…そう思ったらなんだか気になって、じっと見てしまった。席を譲られた女性は、二つ先のバス停で降りていった。その人が俺の横を通りすぎていく時、鞄に何かピンクのバッジみたいのがついているのが見えた。その時はわからなかったけど、後日、テレビの番組でそれがお腹のまだ目立たない妊婦がつけるキーホルダーみたいなもので、彼女がそれに気付いて席を譲ったのだとわかるとその周りへのさりげない配慮に、一気に彼女に興味を持った。
クラス替えがあり新しい教室に入ると彼女がいた。俺は心の中で小躍りしていた。それでも、ちゃんと話し掛けれたのは席替えをして隣の席になった六月、更衣の時期を過ぎて夏服になってからだった。
2008.05.26 Mon
第三章 秋・色づき
vol.13
京子が田崎くんを好きになったのはすぐにわかった。
夏休み明け、彼女の彼を見る目は恋する女のそれだった。
今まで化粧なんてしなかったコが化粧をし始めたり、
眼鏡をコンタクトに変えたり、それは明らかに恋をしているサイン。
多分…きっかけはゼミ合宿の夜、
私が席を外し田崎くんと京子が二人になった空白の10分間。
何を話していたのか、結局田崎くんに聞いても教えてもらえなかった。
そして、その翌日田崎くんが京子に声をかける場面を幾度となく見かけ、
私は急に焦りを感じ始めた。
私の方が先に好きになったのに、
私のが絶対オシャレでかわいいのに…
後から好きになった冴えない京子なんかに
田崎くん、とられたくない。
「ねえ、田崎くんて彼女いつからいないの?」
ゼミが終わり、次の授業に向かう京子と榊くんをよそに
私はいつものように学食に田崎くんを誘いお茶をしながら
さりげなく聞いていた。
「んーいつだろ…去年の春まではいたんだけど、
そーいやもう一年以上いないわ」
田崎くんがなにか思い出しながら言った。
昔の彼女でも思い浮かべてるのかな…。
「え?そーゆう聡美は?」
「え?あたし?」
「人に聞いといて自分は内緒とかナシな」
「…あたしまだ彼氏できたことないんだけど…って言ったら驚く?」
正直に答える必要なんてない。
私はギャップで田崎くんの気をひくために嘘をついた。
「へー意外だな。で、どーゆうやつがタイプなの?」
田崎くんが身を乗り出して聞いてきた。
いい調子、いい調子。
「なんだろな…好きになった人がタイプかな」
「それいまいち答えになってないんだけど」
「だってほんとにそうなんだもん」
「え、今いんの?好きなやつ」
「うん、まあね」
「へー誰?俺知ってるやつ?」
「え…うん、まあ…」
言葉を濁しながら田崎くんを見つめた。
田崎くんはそれ以上何も聞かなかった。
私もそれ以上何も言わなかった。
vol.13
京子が田崎くんを好きになったのはすぐにわかった。
夏休み明け、彼女の彼を見る目は恋する女のそれだった。
今まで化粧なんてしなかったコが化粧をし始めたり、
眼鏡をコンタクトに変えたり、それは明らかに恋をしているサイン。
多分…きっかけはゼミ合宿の夜、
私が席を外し田崎くんと京子が二人になった空白の10分間。
何を話していたのか、結局田崎くんに聞いても教えてもらえなかった。
そして、その翌日田崎くんが京子に声をかける場面を幾度となく見かけ、
私は急に焦りを感じ始めた。
私の方が先に好きになったのに、
私のが絶対オシャレでかわいいのに…
後から好きになった冴えない京子なんかに
田崎くん、とられたくない。
「ねえ、田崎くんて彼女いつからいないの?」
ゼミが終わり、次の授業に向かう京子と榊くんをよそに
私はいつものように学食に田崎くんを誘いお茶をしながら
さりげなく聞いていた。
「んーいつだろ…去年の春まではいたんだけど、
そーいやもう一年以上いないわ」
田崎くんがなにか思い出しながら言った。
昔の彼女でも思い浮かべてるのかな…。
「え?そーゆう聡美は?」
「え?あたし?」
「人に聞いといて自分は内緒とかナシな」
「…あたしまだ彼氏できたことないんだけど…って言ったら驚く?」
正直に答える必要なんてない。
私はギャップで田崎くんの気をひくために嘘をついた。
「へー意外だな。で、どーゆうやつがタイプなの?」
田崎くんが身を乗り出して聞いてきた。
いい調子、いい調子。
「なんだろな…好きになった人がタイプかな」
「それいまいち答えになってないんだけど」
「だってほんとにそうなんだもん」
「え、今いんの?好きなやつ」
「うん、まあね」
「へー誰?俺知ってるやつ?」
「え…うん、まあ…」
言葉を濁しながら田崎くんを見つめた。
田崎くんはそれ以上何も聞かなかった。
私もそれ以上何も言わなかった。
2008.05.25 Sun
第三章 秋・色づき
vol.12
初めて彼を見た時から、絶対彼氏にしようって決めてた。
一目惚れだった。
男なんて顔がすべてだと思う。
性格が一番大事だなんていうのは、
かっこいい男を捕まえられない女の
負け惜しみでしかないってのが私の持論。
まあもちろんそんなこと、友達の前では口にしないけどね。
「聡美はどういう人がタイプなの?」
「そうね〜優しい人かな」
聞かれたら、だいたいそう答えておけば角も立たない。
これは高校までに痛い目見て身を持って学んだこと。
けど去年同じゼミで仲良くなった子の彼氏をとっちゃって…
気まずくなって…私は彼女と違うゼミをとった。
一年の時の人間関係をリセットしたくて…。
ちなみにいうとその友達の彼氏は
私が友達から奪ったっていうか、一目惚れされただけ。
私からとろうと思ったわけじゃない。
まあ友達から見たら大差ないのかもしんないけど。
結構かっこよかったし、断る理由もなくて
その人とつきあったけど結局、三ヶ月で別れた。
そいつはつきあうとすぐに体を求めてきた。
私はトラウマがあって…正直その行為が好きじゃない。
拒み続けてるうちにそいつは結局、元カノとよりを戻した。
友達は勝ち誇ったような顔で私を見てたけど、
私はたいした男じゃなかったんだと自分に言い聞かせた。
田崎くんと仲良くなる為、私は率先して
ゼミのコンパや合宿の幹事をやった。
作戦は見事的中し自然に仲良くなり一緒にいるようになった。
田崎くんはほんとにキレイな顔をしていて、
見ているだけで目の保養になった。
でもそれだけじゃ満たされない…
彼を独り占めしたい…。
今まではだいたい相手から告られてつきあうってパターンで
私は一度も自分から告白したことはなかったから…
決定的な一言が言えないまま夏が過ぎ、
結局、木々が赤く色づく頃に起きた
ある変化が私をつき動かすことになった。
vol.12
初めて彼を見た時から、絶対彼氏にしようって決めてた。
一目惚れだった。
男なんて顔がすべてだと思う。
性格が一番大事だなんていうのは、
かっこいい男を捕まえられない女の
負け惜しみでしかないってのが私の持論。
まあもちろんそんなこと、友達の前では口にしないけどね。
「聡美はどういう人がタイプなの?」
「そうね〜優しい人かな」
聞かれたら、だいたいそう答えておけば角も立たない。
これは高校までに痛い目見て身を持って学んだこと。
けど去年同じゼミで仲良くなった子の彼氏をとっちゃって…
気まずくなって…私は彼女と違うゼミをとった。
一年の時の人間関係をリセットしたくて…。
ちなみにいうとその友達の彼氏は
私が友達から奪ったっていうか、一目惚れされただけ。
私からとろうと思ったわけじゃない。
まあ友達から見たら大差ないのかもしんないけど。
結構かっこよかったし、断る理由もなくて
その人とつきあったけど結局、三ヶ月で別れた。
そいつはつきあうとすぐに体を求めてきた。
私はトラウマがあって…正直その行為が好きじゃない。
拒み続けてるうちにそいつは結局、元カノとよりを戻した。
友達は勝ち誇ったような顔で私を見てたけど、
私はたいした男じゃなかったんだと自分に言い聞かせた。
田崎くんと仲良くなる為、私は率先して
ゼミのコンパや合宿の幹事をやった。
作戦は見事的中し自然に仲良くなり一緒にいるようになった。
田崎くんはほんとにキレイな顔をしていて、
見ているだけで目の保養になった。
でもそれだけじゃ満たされない…
彼を独り占めしたい…。
今まではだいたい相手から告られてつきあうってパターンで
私は一度も自分から告白したことはなかったから…
決定的な一言が言えないまま夏が過ぎ、
結局、木々が赤く色づく頃に起きた
ある変化が私をつき動かすことになった。
2008.05.24 Sat
第三章 秋・色づき
vol.11
夏休み明け、ゼミに行くと京子は眼鏡をかけていなかった。服装も髪型もたいして変わっていないはずなのに、なんだか前にゼミ合宿で会った時とは別人のような気がした。
「京子ちゃんコンタクトにした?眼鏡かけない方がいーじゃん」
隣にいた田崎が先に声をかけた。そうか…コンタクト…でも僕は…眼鏡でもかわいいと思ってたんだけどな…ん?かわいい?
「なに?榊くん。なんか変?」
考え事をしながら京子を見ていたら、ふと京子と目があってしまった。目があった瞬間、京子の周りにぶわっと花が咲いてるように見えた。なんだこの感覚…僕は目をこすりながら
「いやあ…なんか眠いなあと思って」
そう言って少し不自然に視線をそらし、意味もなくカバンから携帯を取り出していた。俯きながら、妙にドキドキしている自分の鼓動が隣にいる京子にばれないようにゆっくりと深呼吸をした。でもそれを意識すればするほど鼓動は早くなっていくみたいだった。
ゼミの授業は毎回発表者が一人いて、自分が興味のあるテーマについてレジュメを作ってきて配布・発表し、それに対して教授がコメントしたり、他の学生が質問したり意見を述べたりして進行していく。教室内は15人の学生がコの字型に並べられた机に座っていて、視線はコの字の最初の角にいる発表者に集められた。京子が発表者なのをいいことに僕は好きなだけ京子の横顔を見ていた。
眉にかかる柔らかそうな前髪、ほんのり色づいている頬、艶めいて見える唇…。まだ夏の余韻を残している暑い日差しが窓から差し込んできて、京子が口を動かす度その口元がキラリと光って見えた。その度にまた京子の周りに花が咲いて見えた。あ…そうか…いつもと違って見えるのは化粧をしているせいなんだ…。今までは化粧なんてしてなかったはず…。
僕はそう思いながら教室の中を見回した。教室には京子の声だけが響いている。他のみんなは机の上に広げた京子のレジュメに視線を落としていた。僕は京子以外の女子の口元を見た。どれも例外なく口紅で彩られている。でも京子のそれを見た時のように心の内側がざわつくことはなかった。
再び京子の艶めく唇に視線を移していると、頭の片隅に「女は化粧で顔が変わる」とどこかで聞いたことのある台詞が浮かんできた。ただそれを実際目の当たりにしたのは初めてで、正直僕は戸惑っていた。ノーメイクで飾らない京子も好きだったのに…まあ、変わってく京子を見るのも楽しいけど。ん、楽しい?
こうして心の中に芽生えた感情が、最初からすぐに恋なのだと気付いていたら、もっと違う形で僕は…君に近づけていたのかな…。ただしばらく恋愛から遠ざかっていた僕が、それが恋だと気付いたのは皮肉にも君が他の誰かに恋をしているのを知った時…だったんだよね。
大学のキャンパスの木々が赤く色づいていくのと同時に僕の気持ちも色づいていった。でも紅葉に例えた次の瞬間、急に胸が痛んだ。この色づいた葉と同じように後は枯れて落ちてくだけなのかなって…そう、思えて…。
vol.11
夏休み明け、ゼミに行くと京子は眼鏡をかけていなかった。服装も髪型もたいして変わっていないはずなのに、なんだか前にゼミ合宿で会った時とは別人のような気がした。
「京子ちゃんコンタクトにした?眼鏡かけない方がいーじゃん」
隣にいた田崎が先に声をかけた。そうか…コンタクト…でも僕は…眼鏡でもかわいいと思ってたんだけどな…ん?かわいい?
「なに?榊くん。なんか変?」
考え事をしながら京子を見ていたら、ふと京子と目があってしまった。目があった瞬間、京子の周りにぶわっと花が咲いてるように見えた。なんだこの感覚…僕は目をこすりながら
「いやあ…なんか眠いなあと思って」
そう言って少し不自然に視線をそらし、意味もなくカバンから携帯を取り出していた。俯きながら、妙にドキドキしている自分の鼓動が隣にいる京子にばれないようにゆっくりと深呼吸をした。でもそれを意識すればするほど鼓動は早くなっていくみたいだった。
ゼミの授業は毎回発表者が一人いて、自分が興味のあるテーマについてレジュメを作ってきて配布・発表し、それに対して教授がコメントしたり、他の学生が質問したり意見を述べたりして進行していく。教室内は15人の学生がコの字型に並べられた机に座っていて、視線はコの字の最初の角にいる発表者に集められた。京子が発表者なのをいいことに僕は好きなだけ京子の横顔を見ていた。
眉にかかる柔らかそうな前髪、ほんのり色づいている頬、艶めいて見える唇…。まだ夏の余韻を残している暑い日差しが窓から差し込んできて、京子が口を動かす度その口元がキラリと光って見えた。その度にまた京子の周りに花が咲いて見えた。あ…そうか…いつもと違って見えるのは化粧をしているせいなんだ…。今までは化粧なんてしてなかったはず…。
僕はそう思いながら教室の中を見回した。教室には京子の声だけが響いている。他のみんなは机の上に広げた京子のレジュメに視線を落としていた。僕は京子以外の女子の口元を見た。どれも例外なく口紅で彩られている。でも京子のそれを見た時のように心の内側がざわつくことはなかった。
再び京子の艶めく唇に視線を移していると、頭の片隅に「女は化粧で顔が変わる」とどこかで聞いたことのある台詞が浮かんできた。ただそれを実際目の当たりにしたのは初めてで、正直僕は戸惑っていた。ノーメイクで飾らない京子も好きだったのに…まあ、変わってく京子を見るのも楽しいけど。ん、楽しい?
こうして心の中に芽生えた感情が、最初からすぐに恋なのだと気付いていたら、もっと違う形で僕は…君に近づけていたのかな…。ただしばらく恋愛から遠ざかっていた僕が、それが恋だと気付いたのは皮肉にも君が他の誰かに恋をしているのを知った時…だったんだよね。
大学のキャンパスの木々が赤く色づいていくのと同時に僕の気持ちも色づいていった。でも紅葉に例えた次の瞬間、急に胸が痛んだ。この色づいた葉と同じように後は枯れて落ちてくだけなのかなって…そう、思えて…。
2008.04.05 Sat
第二章 夏・焦がれ
vol.10
「田崎くんてお兄さんいるんだってね?」
夏休みにあったゼミ合宿の夜、ちょうど榊くんはトイレに、聡美ちゃんは電話がかかってきて席を外しいて田崎くんと二人になる瞬間があった。私は思い切って田崎くんに聞いていた。
「ああ。榊から聞いたの?」
「うん。教師志望の熱い人って言ってたけど」
「確かに熱かったなーアニキは。まあ今もその情熱で頑張ってんじゃないかな」
「先生やってるの?中学?高校?」
「確か最初は高校で現国教えてて、今は中国で日本語教師やってるみたい」
「え?みたいって?」
「あ、親父から聞いただけだからさ。うち両親離婚してんだよね。俺が高校入ってからかな。お袋あんまり精神的に強い人じゃなかったからアニキは心配してお袋についてったんだよね。俺はまだ高校生だったし親父が大学行かせたいからって俺をひきとって…あ、余計なことまでしゃべりすぎ?ごめん」
欠けていた最後のパズルのピースが見つかった気がした。
「ううん…ねえもしかしてさ、お母さんの旧姓…橋本だったりする?」
「え?そうだけどなんで?」
「私のね高二のときの担任の先生が橋本洋介って名前だったんだ…」
「え?マジ?アニキの教え子なの?すげー偶然」
田崎くんはびっくりして目を真ん丸く見開き私を凝視した。
「うわー世の中狭いね。でも、え?いま中国にいるって…」
「ああ、お袋再婚したらしくてアニキももう大丈夫だろうって自分の夢追い掛けてるみたい」
そっか…だから年賀状届かなくなったんだ。よかった…。なにがいいんだかよくわからないけどなんだか安心してる自分がいた。
「ちょっとー何話してるの?あたしも混ぜてよ」
そこに聡美ちゃんが戻ってきて結局話はそれで終わった。田崎くんをチラッと見ると目があい、田崎くんはフッて笑った。その笑顔を見た瞬間、私はもう恋に落ちていた。見た目で好きになるなんて本当の恋じゃない…ずっとそう思っていたのに。田崎くんの笑顔に心奪われてしまっていた。そして…恋は理屈じゃないんだって初めて知った。
あんなに忘れられなかった先生のことも気付けば思い出さなくなっていた。ずっと先生がいた場所に…気付けば田崎くんがいて笑ってた。田崎くんを目で追っている自分がいた。田崎くんに少しでもいいなって思ってもらいたくて…私は夏休みの最後、コンタクトに変えた。眼鏡の時よりもなんだか視界が開けた気がした。
「あれ?京子ちゃん眼鏡やめてコンタクトにしたんだ?」
休み明けゼミにいくと田崎くんが真っ先に気付いて声をかけてくれた。
「うん。眼鏡かけない方が全然かわいいじゃん」
田崎くんがそう言って笑った。
「ほんとに?ありがとう」
答えながら私は、もっと可愛くなろうって心の中で決めていたんだ。
vol.10
「田崎くんてお兄さんいるんだってね?」
夏休みにあったゼミ合宿の夜、ちょうど榊くんはトイレに、聡美ちゃんは電話がかかってきて席を外しいて田崎くんと二人になる瞬間があった。私は思い切って田崎くんに聞いていた。
「ああ。榊から聞いたの?」
「うん。教師志望の熱い人って言ってたけど」
「確かに熱かったなーアニキは。まあ今もその情熱で頑張ってんじゃないかな」
「先生やってるの?中学?高校?」
「確か最初は高校で現国教えてて、今は中国で日本語教師やってるみたい」
「え?みたいって?」
「あ、親父から聞いただけだからさ。うち両親離婚してんだよね。俺が高校入ってからかな。お袋あんまり精神的に強い人じゃなかったからアニキは心配してお袋についてったんだよね。俺はまだ高校生だったし親父が大学行かせたいからって俺をひきとって…あ、余計なことまでしゃべりすぎ?ごめん」
欠けていた最後のパズルのピースが見つかった気がした。
「ううん…ねえもしかしてさ、お母さんの旧姓…橋本だったりする?」
「え?そうだけどなんで?」
「私のね高二のときの担任の先生が橋本洋介って名前だったんだ…」
「え?マジ?アニキの教え子なの?すげー偶然」
田崎くんはびっくりして目を真ん丸く見開き私を凝視した。
「うわー世の中狭いね。でも、え?いま中国にいるって…」
「ああ、お袋再婚したらしくてアニキももう大丈夫だろうって自分の夢追い掛けてるみたい」
そっか…だから年賀状届かなくなったんだ。よかった…。なにがいいんだかよくわからないけどなんだか安心してる自分がいた。
「ちょっとー何話してるの?あたしも混ぜてよ」
そこに聡美ちゃんが戻ってきて結局話はそれで終わった。田崎くんをチラッと見ると目があい、田崎くんはフッて笑った。その笑顔を見た瞬間、私はもう恋に落ちていた。見た目で好きになるなんて本当の恋じゃない…ずっとそう思っていたのに。田崎くんの笑顔に心奪われてしまっていた。そして…恋は理屈じゃないんだって初めて知った。
あんなに忘れられなかった先生のことも気付けば思い出さなくなっていた。ずっと先生がいた場所に…気付けば田崎くんがいて笑ってた。田崎くんを目で追っている自分がいた。田崎くんに少しでもいいなって思ってもらいたくて…私は夏休みの最後、コンタクトに変えた。眼鏡の時よりもなんだか視界が開けた気がした。
「あれ?京子ちゃん眼鏡やめてコンタクトにしたんだ?」
休み明けゼミにいくと田崎くんが真っ先に気付いて声をかけてくれた。
「うん。眼鏡かけない方が全然かわいいじゃん」
田崎くんがそう言って笑った。
「ほんとに?ありがとう」
答えながら私は、もっと可愛くなろうって心の中で決めていたんだ。
2008.04.04 Fri
第二章 夏・焦がれ
vol.9
「これ1番の歌詞がなかなかいんだよね」
田崎くんがそういって、マイクを握った。画面に映し出された曲名を見たとき私は内心ドキリとしていた。
GWに入る前、ゼミの新歓コンパがあった。場所は幹事だった田崎くんと聡美ちゃんの趣味で一次会からカラオケだった。フードメニューもあるお店で、みんな好きなものを注文して飲み食いしながら、順番に歌っていった。教室での配置通り、私は榊くんの隣に座った。そしてその隣には田崎くんがいた。
2時間はあっという間に過ぎ、最後に田崎くんはアンパンマンのマーチで締めた。みんなはブーイングだったけど、私は画面の歌詞と、田崎くんの歌う姿に釘付けになっていた。帰り道、二次会にいく田崎くんや聡美ちゃんを尻目に私は帰ることにした。榊くんもお金がないといって一緒に帰ることになった。すると榊くんの口から思いもかけない話が飛び出してきたんだ。
「最後にアンパンマンはないよねー」
「なんか田崎くんとアンパンマンて似合わないよね」
「あれさー田崎のアニキの影響なんだよね」
そう言うと榊くんはなにか思い出したようでおかしそうに笑った。
「あいつ七つ上のアニキがいるんだけど、アニキがアンパンマン好きらしくて、その影響であいつも好きみたいでさ。」
「へーそうなんだ〜」
「うん、あいつ中学んときの友達でさ昔は家に遊びに行ったりしてたから俺もそのアニキにも会ってて。あ、俺は洋介さんて呼んでたんだけど、教師を目指してる熱い人で俺らによく本を読め読めっていってきてさ。田崎はマンガ専門であんまり読まなかったけど俺は洋介さんに本借りて結構読んでて。」
七つ上、アンパンマン、洋介、教師志望、それに榊くんと私…だいたい同じような本読んでる…胸騒ぎがした。もしかして…淡い期待が沸き上がる。でも…。ただの偶然の重なり?それとも…?
vol.9
「これ1番の歌詞がなかなかいんだよね」
田崎くんがそういって、マイクを握った。画面に映し出された曲名を見たとき私は内心ドキリとしていた。
GWに入る前、ゼミの新歓コンパがあった。場所は幹事だった田崎くんと聡美ちゃんの趣味で一次会からカラオケだった。フードメニューもあるお店で、みんな好きなものを注文して飲み食いしながら、順番に歌っていった。教室での配置通り、私は榊くんの隣に座った。そしてその隣には田崎くんがいた。
2時間はあっという間に過ぎ、最後に田崎くんはアンパンマンのマーチで締めた。みんなはブーイングだったけど、私は画面の歌詞と、田崎くんの歌う姿に釘付けになっていた。帰り道、二次会にいく田崎くんや聡美ちゃんを尻目に私は帰ることにした。榊くんもお金がないといって一緒に帰ることになった。すると榊くんの口から思いもかけない話が飛び出してきたんだ。
「最後にアンパンマンはないよねー」
「なんか田崎くんとアンパンマンて似合わないよね」
「あれさー田崎のアニキの影響なんだよね」
そう言うと榊くんはなにか思い出したようでおかしそうに笑った。
「あいつ七つ上のアニキがいるんだけど、アニキがアンパンマン好きらしくて、その影響であいつも好きみたいでさ。」
「へーそうなんだ〜」
「うん、あいつ中学んときの友達でさ昔は家に遊びに行ったりしてたから俺もそのアニキにも会ってて。あ、俺は洋介さんて呼んでたんだけど、教師を目指してる熱い人で俺らによく本を読め読めっていってきてさ。田崎はマンガ専門であんまり読まなかったけど俺は洋介さんに本借りて結構読んでて。」
七つ上、アンパンマン、洋介、教師志望、それに榊くんと私…だいたい同じような本読んでる…胸騒ぎがした。もしかして…淡い期待が沸き上がる。でも…。ただの偶然の重なり?それとも…?
2008.04.03 Thu
第二章 夏・焦がれ
vol.8
先生は臨時講師だったからもちろん安井先生の産休が終わると学校を去っていってその後、二度と会うことはなかった。ただ私は毎年先生に年賀状を送っていた。小学校の頃からずっと歴代の担任の先生には毎年年賀状を書いてたからその流れで、という大義名分をかざしながらも本当はなんでもいいから先生とのつながりを持ちたかっただけなのかもしれない。一年に一回でも先生が私のことを思い出してくれる、それだけでよかった。先生は真面目な人だからそんな私に毎年年賀状を返してくれてた。でも今年の冬、年賀状は宛先不明で戻ってきてしまった。それっきり…私の初恋は本当に幕を閉じたんだ。
大学に入ってから、一年のうちはまず男子が身近にいる環境に慣れるのに苦労した。ずっと女子校育ちだった弊害は思ったより大きくて。それに大学生活自体がいままでと違って自由で…そのギャップに戸惑ってもいた。決められた授業を受け親が決めた塾に通い、過ぎていく毎日に慣らされていた私には、自分でなにもかも決め有り余る時間をどう使うか自分で考え自発的に動くこと自体が大変だったから、正直恋なんてしてる余裕がなかったんだ。それにまだ先生が私の中にいたし…ね。
二年でとったゼミで最初に隣の席に座ってたのがきっかけで初めて男の子と話すようになった。名前は榊くんといって、不思議と私は彼を異性として見ることなく自然に接することができた。ちょうどゼミの後に同じ授業をとっていたのもあり、話をするうちにお互い読書が好きなのを知り、また同じ本をよく読んでいたのがわかると話が弾み自然と仲良くなった。
榊くんはゼミに友達と一緒に入ってきていて、それが田崎くんだった。初めて会ったとき何故か初めてな気がしなかったのは、後から考えると当たり前だよって感じなんだけど…その時の私にはまだ何もわからなかった。
vol.8
先生は臨時講師だったからもちろん安井先生の産休が終わると学校を去っていってその後、二度と会うことはなかった。ただ私は毎年先生に年賀状を送っていた。小学校の頃からずっと歴代の担任の先生には毎年年賀状を書いてたからその流れで、という大義名分をかざしながらも本当はなんでもいいから先生とのつながりを持ちたかっただけなのかもしれない。一年に一回でも先生が私のことを思い出してくれる、それだけでよかった。先生は真面目な人だからそんな私に毎年年賀状を返してくれてた。でも今年の冬、年賀状は宛先不明で戻ってきてしまった。それっきり…私の初恋は本当に幕を閉じたんだ。
大学に入ってから、一年のうちはまず男子が身近にいる環境に慣れるのに苦労した。ずっと女子校育ちだった弊害は思ったより大きくて。それに大学生活自体がいままでと違って自由で…そのギャップに戸惑ってもいた。決められた授業を受け親が決めた塾に通い、過ぎていく毎日に慣らされていた私には、自分でなにもかも決め有り余る時間をどう使うか自分で考え自発的に動くこと自体が大変だったから、正直恋なんてしてる余裕がなかったんだ。それにまだ先生が私の中にいたし…ね。
二年でとったゼミで最初に隣の席に座ってたのがきっかけで初めて男の子と話すようになった。名前は榊くんといって、不思議と私は彼を異性として見ることなく自然に接することができた。ちょうどゼミの後に同じ授業をとっていたのもあり、話をするうちにお互い読書が好きなのを知り、また同じ本をよく読んでいたのがわかると話が弾み自然と仲良くなった。
榊くんはゼミに友達と一緒に入ってきていて、それが田崎くんだった。初めて会ったとき何故か初めてな気がしなかったのは、後から考えると当たり前だよって感じなんだけど…その時の私にはまだ何もわからなかった。
2008.04.02 Wed
第二章 夏・焦がれ
vol.7
「吉田さん髪切りましたね。短いのも似合ってますよ。」
先生は生徒ひとりひとりを本当によく見ていて、ちょっとした変化にも必ず気付いて、さりげなく声をかけてくれてた。それが嬉しくて…最初はそんな先生のやさしさに惹かれてった。でもそれだけじゃない…私は先生の感性がすごく好きだった。
先生は現国を教えていたんだけど授業のたびに毎回手書きのプリントをくれていて。それには先生がいままで読んで心打たれた詩や小説の一節、歌詞なんかが載っていて、横に手書きで先生のコメントが書かれてた。私はそれをみては、帰りに図書館で本を借りたり、本屋に寄って買ったりしてよく読んでいた。おかげで読書は私の趣味になり、いまでも毎週必ず一冊は本を読んでいたりする。そのときもらったプリントは全部捨てずにとってあって、今でもたまに読み返したりしてる。中でも一番印象に残ってるのはアンパンマンのマーチの1番の歌詞で。アニメで使われてるのは2番の歌詞なのだとその時初めて知った。実は1番の歌詞の方が深くて、心に残るんだ。
高二のニ学期以降、私は現国のテストで常に100点をとれるよう頑張ってた。たまには98点とか稀に96点とかもあったけど…。それがみんなみたいに先生に気軽に近寄れない私が唯一先生にアピールできる方法だったから。テストを返すとき、私にだけ向けられる先生の笑顔がすごく嬉しくて…その一瞬のために私は勉強を頑張ってた。それ以上は何もできなかったけど、誰かのために頑張れる自分が愛おしく思えた。だから…実らない恋だったけど、私は先生を好きになれてよかったと思っている。
vol.7
「吉田さん髪切りましたね。短いのも似合ってますよ。」
先生は生徒ひとりひとりを本当によく見ていて、ちょっとした変化にも必ず気付いて、さりげなく声をかけてくれてた。それが嬉しくて…最初はそんな先生のやさしさに惹かれてった。でもそれだけじゃない…私は先生の感性がすごく好きだった。
先生は現国を教えていたんだけど授業のたびに毎回手書きのプリントをくれていて。それには先生がいままで読んで心打たれた詩や小説の一節、歌詞なんかが載っていて、横に手書きで先生のコメントが書かれてた。私はそれをみては、帰りに図書館で本を借りたり、本屋に寄って買ったりしてよく読んでいた。おかげで読書は私の趣味になり、いまでも毎週必ず一冊は本を読んでいたりする。そのときもらったプリントは全部捨てずにとってあって、今でもたまに読み返したりしてる。中でも一番印象に残ってるのはアンパンマンのマーチの1番の歌詞で。アニメで使われてるのは2番の歌詞なのだとその時初めて知った。実は1番の歌詞の方が深くて、心に残るんだ。
高二のニ学期以降、私は現国のテストで常に100点をとれるよう頑張ってた。たまには98点とか稀に96点とかもあったけど…。それがみんなみたいに先生に気軽に近寄れない私が唯一先生にアピールできる方法だったから。テストを返すとき、私にだけ向けられる先生の笑顔がすごく嬉しくて…その一瞬のために私は勉強を頑張ってた。それ以上は何もできなかったけど、誰かのために頑張れる自分が愛おしく思えた。だから…実らない恋だったけど、私は先生を好きになれてよかったと思っている。
2008.04.01 Tue
第二章 夏・焦がれ
vol.6
友達に聞くとたいてい初恋は小学校のときって答えが返ってきた。けどその大半が、かっこいいとか走るのが速いとかおもしろいとかでクラスの人気者としてバレンタインにチョコの数を競うような子たちに対するもので私はそれってほんとに恋って言えるのかなって思ったりしてた。私の初恋は高二のときだからかなり遅い方みたいだけど、その分本当の恋ってゆうか…とにかく私にいろんなこと教えてくれた、いい恋だったと思うんだ。
高二の一学期の終わり、担任の安井先生が産休に入り、二学期からは代わりに臨時の先生がきて担任になった。それが橋本先生だった。当時先生はまだ教師歴二年目で、若くてかっこよかったからクラスの子はたいていみんなキャアキャアいってた。下の名前が洋介だったから私以外はみんな、『洋介ちゃん』って呼んでたっけ。女子高で若い男性教師がモテるのはありがちな光景で、でも私はそんなノリで好きなのとは違ったから、クラスでひとり先生に無関心な振りしてた。でもほんとはそこにいた誰よりも先生を好きな気持ち、大きかったと思う。それだけは…自信があった。
中にはモデルみたいにスタイルもよくてかわいくて自分に自信があって積極的にアタックしてた佐々木さんみたいな子もいたりした。けどいくら若いっていっても先生との年の差は七つだし生徒なんて相手にしてもらえるわけないし…。まして私みたいに成績がいいくらいしか取り柄のないつまんないコ、絶対無理に決まってる。だから、恋なんてくだらないって顔して…私は、先生に群がるとりまきたちを眼鏡の奥からそっと見ていることしかできなかった。
みんなは多分見た目で先生を好きになってたと思う。事実、先生はいつもオシャレな格好をしていたし背も高くてスラッとしてて。黒板に板書するときのチョークを持つ手がまるで女の人みたいにキレイで。でも私が好きになったのはそんな外見とかじゃなかった。
vol.6
友達に聞くとたいてい初恋は小学校のときって答えが返ってきた。けどその大半が、かっこいいとか走るのが速いとかおもしろいとかでクラスの人気者としてバレンタインにチョコの数を競うような子たちに対するもので私はそれってほんとに恋って言えるのかなって思ったりしてた。私の初恋は高二のときだからかなり遅い方みたいだけど、その分本当の恋ってゆうか…とにかく私にいろんなこと教えてくれた、いい恋だったと思うんだ。
高二の一学期の終わり、担任の安井先生が産休に入り、二学期からは代わりに臨時の先生がきて担任になった。それが橋本先生だった。当時先生はまだ教師歴二年目で、若くてかっこよかったからクラスの子はたいていみんなキャアキャアいってた。下の名前が洋介だったから私以外はみんな、『洋介ちゃん』って呼んでたっけ。女子高で若い男性教師がモテるのはありがちな光景で、でも私はそんなノリで好きなのとは違ったから、クラスでひとり先生に無関心な振りしてた。でもほんとはそこにいた誰よりも先生を好きな気持ち、大きかったと思う。それだけは…自信があった。
中にはモデルみたいにスタイルもよくてかわいくて自分に自信があって積極的にアタックしてた佐々木さんみたいな子もいたりした。けどいくら若いっていっても先生との年の差は七つだし生徒なんて相手にしてもらえるわけないし…。まして私みたいに成績がいいくらいしか取り柄のないつまんないコ、絶対無理に決まってる。だから、恋なんてくだらないって顔して…私は、先生に群がるとりまきたちを眼鏡の奥からそっと見ていることしかできなかった。
みんなは多分見た目で先生を好きになってたと思う。事実、先生はいつもオシャレな格好をしていたし背も高くてスラッとしてて。黒板に板書するときのチョークを持つ手がまるで女の人みたいにキレイで。でも私が好きになったのはそんな外見とかじゃなかった。


