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2007.11.14 Wed
こちらも別サイトで書いてた小説です。
けっこう自分ではお気に入りの一品。
よかったら読んでみてくださいね。
けっこう自分ではお気に入りの一品。
よかったら読んでみてくださいね。
『色々な僕ら』
たっちゃんは何色だろう?
大学のメインストリートを歩きながらふと考えた。
たっちゃんは一見とりたててこれと言った個性がない。
いわゆる普通の人だ。
隣を歩いてる高校から一緒のけんちゃんは間違いなく赤。
すぐにカッとなる短気くん。
自分の信念を熱く語るのが好きで長いつきあいになるけど
たまにうざいときがある。
少し前をすたすたと歩いてるたかやんは青だな。
いつもクールでクレバー。
試験前はみんな必ずたかやんの世話になる。
かくいう僕はあえていうなら黄色かな。
いつもなんか騒いでて落ち着きがない。
黄色ってずっと見てると目がチカチカしてくるよね?
元カノにもいわれたんだよね…
ずっと一緒にいると疲れるって…。
おっと、辛気臭い話はやめやめ。
たかやんとたっちゃんとは大学で会った。
学部のゼミが同じで新歓コンパのとき
同じテーブルに座ったのが始まり。
ちなみに僕ら四人以外はみんな女子。
…まあ文学部なんて所詮そんなもの。
それから僕ら四人は数少ない男同士
自然につるむようになった。
飯食いに行く時も遊びに行く時もたっちゃんが
希望をいうことはまずなかった。
「たっちゃんには自分の意見とかないわけ?」
けんちゃんは毎度、口癖のようにそういっていたけど
グループにはこういう人も必要だよねって漠然と思ってた。
みんながみんな主張してたら何も決まらないもんね。
入学して一年経つ頃には僕は
たっちゃんといる時間が一番長くなっていた。
けんちゃんはバイトだといってたいがいすぐ帰っていくし、
たかやんはサークルに入っていて放課後は部室に直行。
僕とたっちゃんは特に何もしてなくて自然と
一緒に帰ることが多くなっていたのだ。
その日は後期試験の最終日後で最後のテストが
みんな一緒で四人一緒だった。
そして…僕とけんちゃんは朝から険悪ムードだった。
原因はけんちゃん。
僕の元カノとつきあっているのが発覚したのだ。
しかも僕と別れてすぐつきあい出し
バイトだと言って帰ってたうち半分はデートだったらしい。
今朝電車でたまたま会った高校の友達から聞いてわかった。
まあ別れた原因は百歩譲って僕にあったとして…
つきあってるならつきあってるっていえばいいのに…
ずっと僕に隠れてつきあっていたことに無性に腹が立った。
しばらく言い合いになった後気まずい沈黙が流れた。
「なあ、ちょっとオレにつきあってよ?」
三人の視線は一瞬にしてたっちゃんに集中した。
「なに?」
けんちゃんが不機嫌そうに聞いた。
「いんじゃない?ここでこうしてるよりは」
今まで黙っていたたかやんが口を開いた。
「で、どこいくの?」
僕が聞くとたっちゃんは何も言わず
ただニッコリと笑って歩き出した。
僕ら三原色トリオはなんとなく
互いに距離をとりながらその後を追った。
大学を出て15分くらい歩いただろうか。
着いたのはタコ焼き屋だった。
「おばちゃんタコ焼き二つ」
たっちゃんがいった。どうやら常連らしい。
「はい。これけんちゃんと二人で。
たかやんはオレとこっちね。」
そういってたっちゃんはタコ焼きを一パック僕に手渡した。
するとけんちゃんは無言で僕からパックをとりあげ
タコ焼きを一個頬張った。
「あちっ。ん、うま!むっちゃうめぇ!
ほら、なかちゃんも食ってみ?」
突然けんちゃんがそう言って
僕に笑顔でタコ焼きを差し出した。
僕は渋い顔のまま手づかみで
一つタコ焼きを口に放り込んだ。
「うおっ、ヤバイ!コレマジうまいなー!
な、けんちゃん、これあそこのより断然うまくね?」
僕は自然と笑顔になりけんちゃんに話しかけていた。
“あそこ”とは僕とけんちゃんが通っていた
高校の向かいにある売店で、そこのタコ焼きを
よく二人で授業をさぼっては食べていた。
「たっちゃん、どーやって見つけたのここ?」
たかやんが口の端についたソースを
ぺろりと舐めながら聞いた。
「ああ…一人で帰るときいろんな道通るんだよね。
それで。気に入った?」
たっちゃんがそう言って僕らの顔を満足そうに見ていた。
その時「白だ」と思った。
たっちゃんは白だ。
たっちゃんのおかげで僕ら三原色は一緒にいても
真っ黒にならずに済んでいる。
たっちゃんがいるから
僕はクリーム色に、
けんちゃんはピンク(笑)に
たかやんは水色に少しだけ近づき…
互いに反発し合わないよう、
うま〜く色合いを調合されていたみたいだ。
“個性がない”なんて…
僕はどっかでたっちゃんを、
バカにしていたのかもしれない。
…ごめん、たっちゃん。
白ってすごい個性だよ。
僕は初めてたっちゃんの何気ないすごさに気付いて
タコ焼きをもう一つ注文しながら、
一人ひそかに感動していた。
たっちゃんは何色だろう?
大学のメインストリートを歩きながらふと考えた。
たっちゃんは一見とりたててこれと言った個性がない。
いわゆる普通の人だ。
隣を歩いてる高校から一緒のけんちゃんは間違いなく赤。
すぐにカッとなる短気くん。
自分の信念を熱く語るのが好きで長いつきあいになるけど
たまにうざいときがある。
少し前をすたすたと歩いてるたかやんは青だな。
いつもクールでクレバー。
試験前はみんな必ずたかやんの世話になる。
かくいう僕はあえていうなら黄色かな。
いつもなんか騒いでて落ち着きがない。
黄色ってずっと見てると目がチカチカしてくるよね?
元カノにもいわれたんだよね…
ずっと一緒にいると疲れるって…。
おっと、辛気臭い話はやめやめ。
たかやんとたっちゃんとは大学で会った。
学部のゼミが同じで新歓コンパのとき
同じテーブルに座ったのが始まり。
ちなみに僕ら四人以外はみんな女子。
…まあ文学部なんて所詮そんなもの。
それから僕ら四人は数少ない男同士
自然につるむようになった。
飯食いに行く時も遊びに行く時もたっちゃんが
希望をいうことはまずなかった。
「たっちゃんには自分の意見とかないわけ?」
けんちゃんは毎度、口癖のようにそういっていたけど
グループにはこういう人も必要だよねって漠然と思ってた。
みんながみんな主張してたら何も決まらないもんね。
入学して一年経つ頃には僕は
たっちゃんといる時間が一番長くなっていた。
けんちゃんはバイトだといってたいがいすぐ帰っていくし、
たかやんはサークルに入っていて放課後は部室に直行。
僕とたっちゃんは特に何もしてなくて自然と
一緒に帰ることが多くなっていたのだ。
その日は後期試験の最終日後で最後のテストが
みんな一緒で四人一緒だった。
そして…僕とけんちゃんは朝から険悪ムードだった。
原因はけんちゃん。
僕の元カノとつきあっているのが発覚したのだ。
しかも僕と別れてすぐつきあい出し
バイトだと言って帰ってたうち半分はデートだったらしい。
今朝電車でたまたま会った高校の友達から聞いてわかった。
まあ別れた原因は百歩譲って僕にあったとして…
つきあってるならつきあってるっていえばいいのに…
ずっと僕に隠れてつきあっていたことに無性に腹が立った。
しばらく言い合いになった後気まずい沈黙が流れた。
「なあ、ちょっとオレにつきあってよ?」
三人の視線は一瞬にしてたっちゃんに集中した。
「なに?」
けんちゃんが不機嫌そうに聞いた。
「いんじゃない?ここでこうしてるよりは」
今まで黙っていたたかやんが口を開いた。
「で、どこいくの?」
僕が聞くとたっちゃんは何も言わず
ただニッコリと笑って歩き出した。
僕ら三原色トリオはなんとなく
互いに距離をとりながらその後を追った。
大学を出て15分くらい歩いただろうか。
着いたのはタコ焼き屋だった。
「おばちゃんタコ焼き二つ」
たっちゃんがいった。どうやら常連らしい。
「はい。これけんちゃんと二人で。
たかやんはオレとこっちね。」
そういってたっちゃんはタコ焼きを一パック僕に手渡した。
するとけんちゃんは無言で僕からパックをとりあげ
タコ焼きを一個頬張った。
「あちっ。ん、うま!むっちゃうめぇ!
ほら、なかちゃんも食ってみ?」
突然けんちゃんがそう言って
僕に笑顔でタコ焼きを差し出した。
僕は渋い顔のまま手づかみで
一つタコ焼きを口に放り込んだ。
「うおっ、ヤバイ!コレマジうまいなー!
な、けんちゃん、これあそこのより断然うまくね?」
僕は自然と笑顔になりけんちゃんに話しかけていた。
“あそこ”とは僕とけんちゃんが通っていた
高校の向かいにある売店で、そこのタコ焼きを
よく二人で授業をさぼっては食べていた。
「たっちゃん、どーやって見つけたのここ?」
たかやんが口の端についたソースを
ぺろりと舐めながら聞いた。
「ああ…一人で帰るときいろんな道通るんだよね。
それで。気に入った?」
たっちゃんがそう言って僕らの顔を満足そうに見ていた。
その時「白だ」と思った。
たっちゃんは白だ。
たっちゃんのおかげで僕ら三原色は一緒にいても
真っ黒にならずに済んでいる。
たっちゃんがいるから
僕はクリーム色に、
けんちゃんはピンク(笑)に
たかやんは水色に少しだけ近づき…
互いに反発し合わないよう、
うま〜く色合いを調合されていたみたいだ。
“個性がない”なんて…
僕はどっかでたっちゃんを、
バカにしていたのかもしれない。
…ごめん、たっちゃん。
白ってすごい個性だよ。
僕は初めてたっちゃんの何気ないすごさに気付いて
タコ焼きをもう一つ注文しながら、
一人ひそかに感動していた。
2007.11.05 Mon
こちらも、別サイトでアップしていた小説。
『LAST SKY』―最後の空。
それが意味するものは何か。
ぜひ、読んでみてください。
『LAST SKY』―最後の空。
それが意味するものは何か。
ぜひ、読んでみてください。
『LAST SKY』
裕伍はよく空の写真を撮っては私に送ってくれていた。
裕伍のとる写真が私は大好きだった。
事故の時も…、裕伍は私にメールを送ろうとしていた
らしい。電源が入った瞬間、ケータイは一通の未送信メ
ールを送信した。と次の瞬間、私のケータイのバイブが
鳴り、届くはずのないメールが私の元に届けられた。
葬儀の後、裕伍のお母さんが私に遺品としてこのケー
タイをくれた。
「電源がね…もう入らないみたいなの。だからあまり意
味はないかもしれないけど…あの子が離れているあな
たと繋がるために持っていたものだから…これはあな
たが持っていって。」
葬式の間も…そして彼が煙になって空に帰っていく時
さえも私は泣けなかった。…理解できなかった。彼がも
うこの世にいないという実感がまるでわかなかった。
裕伍とは遠距離だった。次はクリスマスに会うはずだっ
た。その日は珍しく一日連絡がなくて夜にでも電話しよ
うとしていた矢先、登録はしてあるもののほとんどかかっ
てきたことがない「裕伍自宅」の文字が待受に浮かび上
がった。胸騒ぎがした。電話の向こうからは初めて聞く
彼のお母さんの声…。突然、彼の死を告げられた私はた
だ「はい」と頷くことしかできなかった。
帰る時間になり、着替える時間もなく私は喪服の上に
コートを羽織っただけで駅に向かった。なんとか新幹線
に飛び乗る。席について私はようやく深い溜め息をつい
た。ポケットの中に手を入れ裕伍のケータイを握りしめ
たまま、カバンから自分のケータイを取り出しメールの
受信履歴を見返す。
裕伍の何気ない言葉が、彼が切り取ったたくさんの空
の写真が…私の渇いた心に染み込んでいった。
ねえ?裕伍は最期に何を見たのかな?
何を思っていたのかな?
裕伍の声が聞きたいよ…。
もう一度裕伍を抱きしめたい…。
裕伍の体温を感じたいよ…。
無駄なあがきだと知りつつ私は裕伍のケータイを取り
出し真っ黒い待受画面を開き…祈りを込めて電源ボタン
を押した。とその瞬間、画面に光が灯った。心臓が止ま
るかと思った。画面はメール送信完了の文字を映すとす
ぐにまた、真っ黒い画面に戻った。すると次の瞬間、私
のケータイが振動し、メールを受信した。
恐る恐るメールを開く。浮かび上がる裕伍の文字…。
件名には「青空のおすそ分け」とあり写真が添付されて
いた。

そこには裕伍が最期に見ただろう澄んだ青空が映って
いた。その日の朝、私の住む街は今にも雪が舞い落ちて
きそうな曇り空だった。私はすでに日課になっていた朝
一の“おはようメール”にそのことを書いて、裕伍にメ
ールで送っていたのだ。
裕伍らしいな…。
私はそれを見て…初めて裕伍の死を実感した。もう…
裕伍からこんなふうにメールが届くことはないんだ。も
う裕伍の切り取った空の写真を見ることもできない。彼
はもう…この世界のどこにもいないのだ。
その後はいくら電源ボタンを押してももう…それが目
覚めることはなかった。裕伍と共に…永遠の眠りについ
たのだ。
「ありがとう」
私は自分のケータイを開いてメールに一言そう打ち込
んだ。裕伍のアドレスを選択して送信すると送信完了を
確認せずにケータイをポケットの中にしまい、シートを
倒して目を閉じた。
涙が溢れて止まらなかった。
裕伍はよく空の写真を撮っては私に送ってくれていた。
裕伍のとる写真が私は大好きだった。
事故の時も…、裕伍は私にメールを送ろうとしていた
らしい。電源が入った瞬間、ケータイは一通の未送信メ
ールを送信した。と次の瞬間、私のケータイのバイブが
鳴り、届くはずのないメールが私の元に届けられた。
葬儀の後、裕伍のお母さんが私に遺品としてこのケー
タイをくれた。
「電源がね…もう入らないみたいなの。だからあまり意
味はないかもしれないけど…あの子が離れているあな
たと繋がるために持っていたものだから…これはあな
たが持っていって。」
葬式の間も…そして彼が煙になって空に帰っていく時
さえも私は泣けなかった。…理解できなかった。彼がも
うこの世にいないという実感がまるでわかなかった。
裕伍とは遠距離だった。次はクリスマスに会うはずだっ
た。その日は珍しく一日連絡がなくて夜にでも電話しよ
うとしていた矢先、登録はしてあるもののほとんどかかっ
てきたことがない「裕伍自宅」の文字が待受に浮かび上
がった。胸騒ぎがした。電話の向こうからは初めて聞く
彼のお母さんの声…。突然、彼の死を告げられた私はた
だ「はい」と頷くことしかできなかった。
帰る時間になり、着替える時間もなく私は喪服の上に
コートを羽織っただけで駅に向かった。なんとか新幹線
に飛び乗る。席について私はようやく深い溜め息をつい
た。ポケットの中に手を入れ裕伍のケータイを握りしめ
たまま、カバンから自分のケータイを取り出しメールの
受信履歴を見返す。
裕伍の何気ない言葉が、彼が切り取ったたくさんの空
の写真が…私の渇いた心に染み込んでいった。
ねえ?裕伍は最期に何を見たのかな?
何を思っていたのかな?
裕伍の声が聞きたいよ…。
もう一度裕伍を抱きしめたい…。
裕伍の体温を感じたいよ…。
無駄なあがきだと知りつつ私は裕伍のケータイを取り
出し真っ黒い待受画面を開き…祈りを込めて電源ボタン
を押した。とその瞬間、画面に光が灯った。心臓が止ま
るかと思った。画面はメール送信完了の文字を映すとす
ぐにまた、真っ黒い画面に戻った。すると次の瞬間、私
のケータイが振動し、メールを受信した。
恐る恐るメールを開く。浮かび上がる裕伍の文字…。
件名には「青空のおすそ分け」とあり写真が添付されて
いた。

そこには裕伍が最期に見ただろう澄んだ青空が映って
いた。その日の朝、私の住む街は今にも雪が舞い落ちて
きそうな曇り空だった。私はすでに日課になっていた朝
一の“おはようメール”にそのことを書いて、裕伍にメ
ールで送っていたのだ。
裕伍らしいな…。
私はそれを見て…初めて裕伍の死を実感した。もう…
裕伍からこんなふうにメールが届くことはないんだ。も
う裕伍の切り取った空の写真を見ることもできない。彼
はもう…この世界のどこにもいないのだ。
その後はいくら電源ボタンを押してももう…それが目
覚めることはなかった。裕伍と共に…永遠の眠りについ
たのだ。
「ありがとう」
私は自分のケータイを開いてメールに一言そう打ち込
んだ。裕伍のアドレスを選択して送信すると送信完了を
確認せずにケータイをポケットの中にしまい、シートを
倒して目を閉じた。
涙が溢れて止まらなかった。
2007.11.04 Sun
今日から以前別のサイトに載せてた小説を
こっちで順次アップしていきたいと思います。
最初に載せるこの『オナジソラノシタ』は
一年前に書いたものです。
実は小説公募に応募して落選しちゃった
作品なんですが、それでも自分的に思い入れの強い作品です。
当時、ある友達と距離ができてしまい
そのまま会わなくなりそうになっていました。
でも、もうこのままかも…と思ったとき
私は彼女を失いたくない、と強く思いました。
そしてもう一度手を伸ばし…
切れかけた糸をまた繋ぎなおすことができました。
そのときの思いを書いたのがこの『オナジソラノシタ』です。
よかったら読んでみてください。
こっちで順次アップしていきたいと思います。
最初に載せるこの『オナジソラノシタ』は
一年前に書いたものです。
実は小説公募に応募して落選しちゃった
作品なんですが、それでも自分的に思い入れの強い作品です。
当時、ある友達と距離ができてしまい
そのまま会わなくなりそうになっていました。
でも、もうこのままかも…と思ったとき
私は彼女を失いたくない、と強く思いました。
そしてもう一度手を伸ばし…
切れかけた糸をまた繋ぎなおすことができました。
そのときの思いを書いたのがこの『オナジソラノシタ』です。
よかったら読んでみてください。
『オナジソラノシタ』
最近毎日、同じ夢を見る。学校帰り僕は真矢と二人、
坂道を歩いている。一歩先を歩く真矢の後ろ姿を見つめ
ていると、彼女は振り返って僕に微笑みかける。けれど
その顔は夕日に照らされてシルエットしか見えない。
「真矢?」
急に不安にかられた僕は彼女の名を呼ぶ。そこで決まっ
て目が覚める。ベッドから起き上がりカーテンを開けて
空を見上げた。いい天気だ。あくびをしながらふと思う。
今、真矢は何をしているんだろう。元気にしてるのかな。
けれどなぜかメールを送れない自分がいた。前は毎日と
はいわなくても三日に一回くらいの割合で送っていた。
でも返事はだいたい一週間くらいこなくてそんなことを
繰り返してるうちに僕の方がそれに合わせてメールを送
る回数を減らした。そんな中真矢から
『草介ごめん。忙しくてあんまりメールできなくて。
でもメールくれるのは嬉しいし全然送ってくれていい
からね。』
というメールが届いた。それから僕は彼女の負担にな
るまいとメールを送らないようにした。そうしてる間に
…僕自身、日常に彼女がいないことに慣れていき…いつ
しかメールを送らなくても気にならなくなっていた。
全くメールをしなくなって三ヵ月がたち距離は心まで
遠ざけてしまうものだと僕は悟った。このまま離れてい
く…それは仕方のないことだと思うようになった。
真矢とは幼なじみで小学校からのつきあいだった。家
が近所でよく一緒に帰っていた。いつも隣に真矢がいた。
それが当たり前だった。中学も一緒でほとんど毎朝一緒
に登校してた。高校からは別々だったけど真矢とはよく
家を行き来してた。お互いの恋愛の相談にも乗ってた。
真矢にはなんでも話せた。彼女もそうだった。その関係
はずっと、変わらないと思っていた。
ところが大学を卒業し僕は雑誌の編集の仕事がしたく
て東京の出版社に就職した。一方真矢は普通に地元のメ
ーカーに就職してOLをしていた。それまでは毎日のよう
にしていたメール、会おうと思えばすぐに会える距離に
いた二人…。僕は空を見上げて深呼吸をし、真矢にメー
ルを送った。
『真矢元気?日常に追われていつの間にか…離れてしまっ
たね。昔はあんなにいつも一緒だったのに…。でもだ
んだん真矢がいないことに慣れて、自分は自分でこっ
ちで友達もできてメールしなくても平気になってきた
みたい。けどそっちに帰るときは連絡するしまた会え
るといいね。真矢も元気で仕事頑張って。』
そのメールを見て真矢がどう思うかなんて考えてなかっ
た。ただ自分の気持ち伝えておきたい、それだけだった。
◇
これは…別れの言葉なの?
草介の日常にはもう私は必要じゃないの?草介にとっ
て…私ってなんだったの?草介から三ヶ月ぶりにメール
が届いたことに心踊らせていた私の胸はメールを読んだ
瞬間、ズキンと痛んだ。さみしいけど…仕方ないのかな。
草介は草介で…新しい環境で新しい人間関係ができて…
離れてくのは仕方ないことなのかな。
最初にメールを送れなくなったのは私の方だった。就
職してから仕事を覚えるのにいっぱいいっぱいだったの
とつきあっていた彼氏と別れる別れないで揉めていたの
と重なって正直、草介にまで気が回らなかった。草介は
メールをくれるけどいつも自分の話を聞いてほしいばか
りで私のことは聞いてくれなかった。
それに…仕事を始めてから草介の考え方や価値観と自
分のそれにはズレがあることに気付いて戸惑っていた。
草介は夢があって仕事一筋って感じで仕事が楽しくて仕
方ないってのがメールから窺えた。でも私には…これと
いった夢がない。仕事も別に何でもよかった。やりたい
ことがないわけじゃないけど仕事は仕事って割り切って
やってた。
人の考え方なんて周りの影響で変わっていく。なのに
私は草介が変わっていくのを受け入れられなかった。い
つも近くにいてなんでも話せて価値観も似てて共感でき
てって…そういうのが心地よくて。離れてから…どんど
ん違和感を感じるようになって、草介が自分から離れて
いくのも感じて…仕方ないのかなってあきらめてしまっ
ていたんだ。
一日どう返事をしようか悩んで…メールを下書きした。
『草介久しぶり。楽しくやってるみたいだね。でもなん
かちょっとさみしいな。草介にとって私って何だった
のかな?私がメール送れなくなった理由…草介は聞い
てくれなかったよね。いつだってそうだった。いまさ
らだけど…私は草介に心配してほしかったんだ、あの
時。けど結局すれ違ってしまった。もっと早く私が自
分の気持ちちゃんと伝えてたら違う結果になってたの
かな。また会うときは笑顔で会えるといいな。
元気でね』
窓の外に月が見えた。きっと同じ空の下に二人はいる
はずなのに…草介とはもう、違う空を見ている気がした。
送り先に草介のアドレスを選びメールを読み返すこと
なく送信した。カーテンを閉め、真っ暗な部屋の中、青
く光るケータイの待受に送信完了の文字だけが浮かび上
がっていた。
◇
そのメールに気付いたのは夜中の3時すぎだった。会
社で明日までの仕事がなかなか終わらず残業しているう
ちにいつの間にか眠ってしまっていた僕はそのケータイ
のバイブで目が覚めた。真矢からのメールだった。僕は
すぐにメールを読んだ。
『草介にとって私って何だったのかな』
その言葉が…僕の心に突き刺さった。しばらく思考が
停止していた。その日、残業していたのは僕だけじゃな
かった。もう一人、締切が明日までといって残業してい
た女の先輩が、突然奇声を発した。
「あ〜もうダメ。間に合わない。あーどうしよ。とりあ
えず音楽でも聴いて気を紛らそ。」
そういってコンポの電源を入れると、いきなり大音量
で音楽が流れ始めた。ふと流れてきたイントロのメロディ
を聞いただけで何か胸がぎゅっと掴まれる感じがした。
『今の二人をつないでるのは 吹く風と記憶だけ
想いは途切れて』
歌い出しの歌詞からなぜか真矢のことが思い出されて
せつなくなった。
『変わらずに動く街で 見上げる空はひとつ
その下で君と僕は ひとり・ひとり』
だんだん涙で視界が滲んできた。僕は先輩に気付かれ
ないように机にうつぶせになった。
『when you feelin' blue,
i wish you can cry in someone's arms
身を切るような優しさの意味を 忘れないから』
曲が終わると僕はすぐに席を立ちトイレに駆け込んだ。
どうして僕は彼女に、あんなことが言えたんだろう?な
んて…自分勝手だったんだろう?その時純粋に、僕は真
矢に会いたいと思った。もう会えないなんて嫌だと、心
から思った。僕はいつも自分のことしか考えてなかった。
真矢の気持ち…全然考えてなかった。
真矢、ごめん。
この気持ちが愛なのか友情なのか正直よくわからなかっ
た。けれど一つだけ確かなことは自分にとって真矢がか
けがえない人で失いたくないという気持ちだった。傍に
いるのが当たり前すぎてそんなこと考えたこともなかっ
た。けど、これからも会いたい。真矢がどうしてるか、
何を考えてるか…ちゃんと知りたい。彼女と関わり続け
たい。自分から離れておいてずいぶん身勝手だと思いな
がら…僕は真矢に会うため、週末地元に帰ることにした。
前もって連絡せず僕は夜行バスに乗り真矢のいる場所
に向かった。バスの中…ずっと真矢のことを考えていた。
あの時真矢に何があったんだろう?どんな気持ちで僕の
メールを読んで僕に返事をしたんだろう?彼女の気持ち
を思うと切なくて胸が痛かった。
もうすぐバスがつく。外は空が白み始めていた。朝日
が上る。僕はそれを写真にとり添付して真矢にメールを
送った。
「もうすぐそっちにつくよ。今日会える?」
◇
朝いつもより早く目が覚めた。休みなんだからもう少
し寝てればいいのにいつものくせで7時には起きてしま
う。ふと枕元のケータイのメール着信ランプが目につい
た。メールを開くと草介だった。
朝日の写真。キレイ。
…もうすぐ着く?
着信時間を見ると5時少し前だった。私は一気に目が
覚めてベッドの上に正座してメールを送ろうか電話をし
ようか迷い、とりあえずメールを送った。
「会えるよ。会いたい。どこに何時にいけばいい?」
送信後すぐに返事がきた。
「よかった。今ね中学校にいるんだ。来れる時間に来て
くれる?」
私はすぐに着替えて出掛ける準備をした。
中学校…何年ぶりだろう?校門をくぐりグランドを見
回すと部活をしている生徒が目についた。私は校庭に歩
を進める。すると芝生の上で草介がねっころがっていた。
私は近寄り、声をかけた。
「草介?」
◇
僕はまたあの夢を見ていた。学校帰りの坂道を僕は真
矢と歩いている。けれど今日は、いつもと少し違う。一
歩先を歩いていた真矢が僕が呼びかける前に立ち止まり
振り返って僕の名を呼んだんだ。
「草介?」
その声は頭の中だけじゃなく耳にも響いていてまるで
すぐそこに真矢がいるようだった。
「草介?」
真矢の僕を呼ぶ声。そして僕の肩を誰かが揺する感触。
「真矢?」
そこには僕を上から覗き込んでいる真矢がいた。どう
やら僕は真矢を待ちながら芝生の上で寝てしまっていた
ようだ。真矢の頭の向こうに青空が広がっているのが見
えた。
「ねえ、真矢も寝転がってみて?」
僕が真矢に言うと真矢は少し考えて僕の隣に寝転がっ
た。
「今…同じ空見てるね」
「うん」
しばらく二人何も言わずただ、空を眺めていた。
…同じ空を。
雲が形を変えながら絶え間なく流れていく。僕は空を
見上げながら真矢に自分の気持ちを言葉にして伝え始め
た。
「真矢ごめん。なんかきっと真矢のこと今までいっぱい
傷つけてきたよね…。真矢の気持ち全然考えてなくて
真矢の優しさに甘えて…勝手に離れて。僕はいつも自
分のことしか考えてなかった。真矢が忙しくてメール
送れないってのそのまま真に受けてじゃあいいやって
メール送らなくなって。真矢がどんな状況か聞こうと
もしなかった。」
すると真矢は
「ほんと草介は自分勝手だよね。今日だっていきなり連
絡せずにきて…私が用事があって会えなかったらどう
するつもりだったの?」
と言ってクスリと笑った。
「そうだよね…ごめん」
僕はまた無意識に真矢の状況を無視していた。
自分が会いたいと言う気持ちだけで動いてしまっていた。
「でも嬉しかった。
草介にもう会えない気がしてたから。」
「うん。僕も…あのまま離れていってもう会わなくなる
気がしてた。」
僕の言葉を聞いて真矢は起き上がり、僕を振り返って
言った。
「メール送れなくなったときね…仕事覚えるのに必死で。
それに大学の時からつきあってた彼氏と別れ話してた
りとか…精神的に余裕なくて…草介の話まで聞いてら
れなかったの。それにね…草介と私じゃ仕事に対する
価値観とか違うって感じてて…草介のメールに草介が
望むような返事返せないのわかってて。それならメー
ルしない方がいいなって思って。」
真矢の言葉にまたハッとなる。彼女は自分が大変な時
も結局僕のことを考えてくれてた。思わず真矢の手を掴
んで僕はその肩を抱きしめた。
「なんで?なんでそんな人のこと考えられるの?
なんか自分が相当ダメなやつって思い知らされて軽く
自己嫌悪なんだけど」
すると彼女は言った。
「なんでかな…?草介のこと好きだからかな…。」
「真矢?」
僕は真矢の言葉を聞いてこう答えた。
「僕も真矢が好きだよ。失いたくないと思った。思い出
の中だけじゃ…嫌だと思った。でもわからない。
これが恋なのかなんなのか…。」
すると真矢は優しく微笑んで僕にこう言った。
「恋でも恋じゃなくても…いいんだよ。お互いに相手が
大切で失いたくないって思ってる。つながってたいっ
て。その気持ちが大事なんじゃない?」
そう、僕は失いかけて気付いた。大切なことに…。
僕は真矢とつながっていたい。これからも、ずっと…。
◇
東京に帰った翌日から僕らは毎日メールを送り合った。
たとえ短くても、一通でも。写真つきでその日に自分が
見たもの、感じたこと、思ったことを伝え合うことにし
たんだ。
伝え合うことが大切なんだって気付いたから。わかり
合いたいと思う気持ちが大事でそして、ただ思うだけじゃ
なくて努力が必要なんだって。ずっとそれを続けるのは
確かに大変なことかもしれない。でも絶対にできるはず。
だって、彼女は僕にとって…かけがえのない人だから。
あのメールがこなかったらきっと二人は今も離れたま
まだった。
真矢、ありがとう。
朝、家を出て駅に向かう途中、ふと空を見上げるとそ
こには変わらずに青い空があった。けど、もう違う空の
下だなんて思わない。
だって僕らは…オナジソラノシタにいるのだから。
※「」内歌詞引用
<出典>V6「それぞれの空」(作詞:田形美喜子、作曲・編曲:HIKARI)
最近毎日、同じ夢を見る。学校帰り僕は真矢と二人、
坂道を歩いている。一歩先を歩く真矢の後ろ姿を見つめ
ていると、彼女は振り返って僕に微笑みかける。けれど
その顔は夕日に照らされてシルエットしか見えない。
「真矢?」
急に不安にかられた僕は彼女の名を呼ぶ。そこで決まっ
て目が覚める。ベッドから起き上がりカーテンを開けて
空を見上げた。いい天気だ。あくびをしながらふと思う。
今、真矢は何をしているんだろう。元気にしてるのかな。
けれどなぜかメールを送れない自分がいた。前は毎日と
はいわなくても三日に一回くらいの割合で送っていた。
でも返事はだいたい一週間くらいこなくてそんなことを
繰り返してるうちに僕の方がそれに合わせてメールを送
る回数を減らした。そんな中真矢から
『草介ごめん。忙しくてあんまりメールできなくて。
でもメールくれるのは嬉しいし全然送ってくれていい
からね。』
というメールが届いた。それから僕は彼女の負担にな
るまいとメールを送らないようにした。そうしてる間に
…僕自身、日常に彼女がいないことに慣れていき…いつ
しかメールを送らなくても気にならなくなっていた。
全くメールをしなくなって三ヵ月がたち距離は心まで
遠ざけてしまうものだと僕は悟った。このまま離れてい
く…それは仕方のないことだと思うようになった。
真矢とは幼なじみで小学校からのつきあいだった。家
が近所でよく一緒に帰っていた。いつも隣に真矢がいた。
それが当たり前だった。中学も一緒でほとんど毎朝一緒
に登校してた。高校からは別々だったけど真矢とはよく
家を行き来してた。お互いの恋愛の相談にも乗ってた。
真矢にはなんでも話せた。彼女もそうだった。その関係
はずっと、変わらないと思っていた。
ところが大学を卒業し僕は雑誌の編集の仕事がしたく
て東京の出版社に就職した。一方真矢は普通に地元のメ
ーカーに就職してOLをしていた。それまでは毎日のよう
にしていたメール、会おうと思えばすぐに会える距離に
いた二人…。僕は空を見上げて深呼吸をし、真矢にメー
ルを送った。
『真矢元気?日常に追われていつの間にか…離れてしまっ
たね。昔はあんなにいつも一緒だったのに…。でもだ
んだん真矢がいないことに慣れて、自分は自分でこっ
ちで友達もできてメールしなくても平気になってきた
みたい。けどそっちに帰るときは連絡するしまた会え
るといいね。真矢も元気で仕事頑張って。』
そのメールを見て真矢がどう思うかなんて考えてなかっ
た。ただ自分の気持ち伝えておきたい、それだけだった。
◇
これは…別れの言葉なの?
草介の日常にはもう私は必要じゃないの?草介にとっ
て…私ってなんだったの?草介から三ヶ月ぶりにメール
が届いたことに心踊らせていた私の胸はメールを読んだ
瞬間、ズキンと痛んだ。さみしいけど…仕方ないのかな。
草介は草介で…新しい環境で新しい人間関係ができて…
離れてくのは仕方ないことなのかな。
最初にメールを送れなくなったのは私の方だった。就
職してから仕事を覚えるのにいっぱいいっぱいだったの
とつきあっていた彼氏と別れる別れないで揉めていたの
と重なって正直、草介にまで気が回らなかった。草介は
メールをくれるけどいつも自分の話を聞いてほしいばか
りで私のことは聞いてくれなかった。
それに…仕事を始めてから草介の考え方や価値観と自
分のそれにはズレがあることに気付いて戸惑っていた。
草介は夢があって仕事一筋って感じで仕事が楽しくて仕
方ないってのがメールから窺えた。でも私には…これと
いった夢がない。仕事も別に何でもよかった。やりたい
ことがないわけじゃないけど仕事は仕事って割り切って
やってた。
人の考え方なんて周りの影響で変わっていく。なのに
私は草介が変わっていくのを受け入れられなかった。い
つも近くにいてなんでも話せて価値観も似てて共感でき
てって…そういうのが心地よくて。離れてから…どんど
ん違和感を感じるようになって、草介が自分から離れて
いくのも感じて…仕方ないのかなってあきらめてしまっ
ていたんだ。
一日どう返事をしようか悩んで…メールを下書きした。
『草介久しぶり。楽しくやってるみたいだね。でもなん
かちょっとさみしいな。草介にとって私って何だった
のかな?私がメール送れなくなった理由…草介は聞い
てくれなかったよね。いつだってそうだった。いまさ
らだけど…私は草介に心配してほしかったんだ、あの
時。けど結局すれ違ってしまった。もっと早く私が自
分の気持ちちゃんと伝えてたら違う結果になってたの
かな。また会うときは笑顔で会えるといいな。
元気でね』
窓の外に月が見えた。きっと同じ空の下に二人はいる
はずなのに…草介とはもう、違う空を見ている気がした。
送り先に草介のアドレスを選びメールを読み返すこと
なく送信した。カーテンを閉め、真っ暗な部屋の中、青
く光るケータイの待受に送信完了の文字だけが浮かび上
がっていた。
◇
そのメールに気付いたのは夜中の3時すぎだった。会
社で明日までの仕事がなかなか終わらず残業しているう
ちにいつの間にか眠ってしまっていた僕はそのケータイ
のバイブで目が覚めた。真矢からのメールだった。僕は
すぐにメールを読んだ。
『草介にとって私って何だったのかな』
その言葉が…僕の心に突き刺さった。しばらく思考が
停止していた。その日、残業していたのは僕だけじゃな
かった。もう一人、締切が明日までといって残業してい
た女の先輩が、突然奇声を発した。
「あ〜もうダメ。間に合わない。あーどうしよ。とりあ
えず音楽でも聴いて気を紛らそ。」
そういってコンポの電源を入れると、いきなり大音量
で音楽が流れ始めた。ふと流れてきたイントロのメロディ
を聞いただけで何か胸がぎゅっと掴まれる感じがした。
『今の二人をつないでるのは 吹く風と記憶だけ
想いは途切れて』
歌い出しの歌詞からなぜか真矢のことが思い出されて
せつなくなった。
『変わらずに動く街で 見上げる空はひとつ
その下で君と僕は ひとり・ひとり』
だんだん涙で視界が滲んできた。僕は先輩に気付かれ
ないように机にうつぶせになった。
『when you feelin' blue,
i wish you can cry in someone's arms
身を切るような優しさの意味を 忘れないから』
曲が終わると僕はすぐに席を立ちトイレに駆け込んだ。
どうして僕は彼女に、あんなことが言えたんだろう?な
んて…自分勝手だったんだろう?その時純粋に、僕は真
矢に会いたいと思った。もう会えないなんて嫌だと、心
から思った。僕はいつも自分のことしか考えてなかった。
真矢の気持ち…全然考えてなかった。
真矢、ごめん。
この気持ちが愛なのか友情なのか正直よくわからなかっ
た。けれど一つだけ確かなことは自分にとって真矢がか
けがえない人で失いたくないという気持ちだった。傍に
いるのが当たり前すぎてそんなこと考えたこともなかっ
た。けど、これからも会いたい。真矢がどうしてるか、
何を考えてるか…ちゃんと知りたい。彼女と関わり続け
たい。自分から離れておいてずいぶん身勝手だと思いな
がら…僕は真矢に会うため、週末地元に帰ることにした。
前もって連絡せず僕は夜行バスに乗り真矢のいる場所
に向かった。バスの中…ずっと真矢のことを考えていた。
あの時真矢に何があったんだろう?どんな気持ちで僕の
メールを読んで僕に返事をしたんだろう?彼女の気持ち
を思うと切なくて胸が痛かった。
もうすぐバスがつく。外は空が白み始めていた。朝日
が上る。僕はそれを写真にとり添付して真矢にメールを
送った。
「もうすぐそっちにつくよ。今日会える?」
◇
朝いつもより早く目が覚めた。休みなんだからもう少
し寝てればいいのにいつものくせで7時には起きてしま
う。ふと枕元のケータイのメール着信ランプが目につい
た。メールを開くと草介だった。
朝日の写真。キレイ。
…もうすぐ着く?
着信時間を見ると5時少し前だった。私は一気に目が
覚めてベッドの上に正座してメールを送ろうか電話をし
ようか迷い、とりあえずメールを送った。
「会えるよ。会いたい。どこに何時にいけばいい?」
送信後すぐに返事がきた。
「よかった。今ね中学校にいるんだ。来れる時間に来て
くれる?」
私はすぐに着替えて出掛ける準備をした。
中学校…何年ぶりだろう?校門をくぐりグランドを見
回すと部活をしている生徒が目についた。私は校庭に歩
を進める。すると芝生の上で草介がねっころがっていた。
私は近寄り、声をかけた。
「草介?」
◇
僕はまたあの夢を見ていた。学校帰りの坂道を僕は真
矢と歩いている。けれど今日は、いつもと少し違う。一
歩先を歩いていた真矢が僕が呼びかける前に立ち止まり
振り返って僕の名を呼んだんだ。
「草介?」
その声は頭の中だけじゃなく耳にも響いていてまるで
すぐそこに真矢がいるようだった。
「草介?」
真矢の僕を呼ぶ声。そして僕の肩を誰かが揺する感触。
「真矢?」
そこには僕を上から覗き込んでいる真矢がいた。どう
やら僕は真矢を待ちながら芝生の上で寝てしまっていた
ようだ。真矢の頭の向こうに青空が広がっているのが見
えた。
「ねえ、真矢も寝転がってみて?」
僕が真矢に言うと真矢は少し考えて僕の隣に寝転がっ
た。
「今…同じ空見てるね」
「うん」
しばらく二人何も言わずただ、空を眺めていた。
…同じ空を。
雲が形を変えながら絶え間なく流れていく。僕は空を
見上げながら真矢に自分の気持ちを言葉にして伝え始め
た。
「真矢ごめん。なんかきっと真矢のこと今までいっぱい
傷つけてきたよね…。真矢の気持ち全然考えてなくて
真矢の優しさに甘えて…勝手に離れて。僕はいつも自
分のことしか考えてなかった。真矢が忙しくてメール
送れないってのそのまま真に受けてじゃあいいやって
メール送らなくなって。真矢がどんな状況か聞こうと
もしなかった。」
すると真矢は
「ほんと草介は自分勝手だよね。今日だっていきなり連
絡せずにきて…私が用事があって会えなかったらどう
するつもりだったの?」
と言ってクスリと笑った。
「そうだよね…ごめん」
僕はまた無意識に真矢の状況を無視していた。
自分が会いたいと言う気持ちだけで動いてしまっていた。
「でも嬉しかった。
草介にもう会えない気がしてたから。」
「うん。僕も…あのまま離れていってもう会わなくなる
気がしてた。」
僕の言葉を聞いて真矢は起き上がり、僕を振り返って
言った。
「メール送れなくなったときね…仕事覚えるのに必死で。
それに大学の時からつきあってた彼氏と別れ話してた
りとか…精神的に余裕なくて…草介の話まで聞いてら
れなかったの。それにね…草介と私じゃ仕事に対する
価値観とか違うって感じてて…草介のメールに草介が
望むような返事返せないのわかってて。それならメー
ルしない方がいいなって思って。」
真矢の言葉にまたハッとなる。彼女は自分が大変な時
も結局僕のことを考えてくれてた。思わず真矢の手を掴
んで僕はその肩を抱きしめた。
「なんで?なんでそんな人のこと考えられるの?
なんか自分が相当ダメなやつって思い知らされて軽く
自己嫌悪なんだけど」
すると彼女は言った。
「なんでかな…?草介のこと好きだからかな…。」
「真矢?」
僕は真矢の言葉を聞いてこう答えた。
「僕も真矢が好きだよ。失いたくないと思った。思い出
の中だけじゃ…嫌だと思った。でもわからない。
これが恋なのかなんなのか…。」
すると真矢は優しく微笑んで僕にこう言った。
「恋でも恋じゃなくても…いいんだよ。お互いに相手が
大切で失いたくないって思ってる。つながってたいっ
て。その気持ちが大事なんじゃない?」
そう、僕は失いかけて気付いた。大切なことに…。
僕は真矢とつながっていたい。これからも、ずっと…。
◇
東京に帰った翌日から僕らは毎日メールを送り合った。
たとえ短くても、一通でも。写真つきでその日に自分が
見たもの、感じたこと、思ったことを伝え合うことにし
たんだ。
伝え合うことが大切なんだって気付いたから。わかり
合いたいと思う気持ちが大事でそして、ただ思うだけじゃ
なくて努力が必要なんだって。ずっとそれを続けるのは
確かに大変なことかもしれない。でも絶対にできるはず。
だって、彼女は僕にとって…かけがえのない人だから。
あのメールがこなかったらきっと二人は今も離れたま
まだった。
真矢、ありがとう。
朝、家を出て駅に向かう途中、ふと空を見上げるとそ
こには変わらずに青い空があった。けど、もう違う空の
下だなんて思わない。
だって僕らは…オナジソラノシタにいるのだから。
※「」内歌詞引用
<出典>V6「それぞれの空」(作詞:田形美喜子、作曲・編曲:HIKARI)
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